警備員の仕事には、施設警備や現金輸送などの決まった業務をこなすものもありますが、なにかしらのイベントに伴っておこなわれる業務もあります。
お祭りやライブなど、大勢の人が集まるイベントでは、そこを守る警備員が必要不可欠です。そのため、イベントの雑踏警備も警備員の重要な仕事の1つとなります。
そうしたイベントの中でも、2020年に開催される東京オリンピックは最大級のものです。日本だけでなく世界各地から人々が集まる祭典ですので、そこを守る警備員の活躍が期待されています。
東京オリンピックと警備員の関係とは?
オリンピックが一大イベントなのは当然ですが、それとは別に東京オリンピックと警備員には密接な関係があるのはご存知でしょうか。
そもそも日本で警備業が一般に認知されたのは、1964年の東京オリンピックがきっかけなのです。
日本警備保障(現SECOM)が東京オリンピックの警備を依頼され、業務がうまく成功した結果として、警備員の存在が日本全国に知られるようになりました。
また、ALSOKの創始者である村井順は、東京オリンピックの組織委員会事務局次長を勤めていました。故村井氏は「オリンピック東京大会こそ綜合警備(ALSOK)の源流だった」と語っています。
SECOMとALSOKという日本の2大警備会社が、双方ともオリンピックと関係を持って成長していったことになります。
過去の五輪の警備員事情と東京オリンピック
オリンピックの規模は年々拡大していますが、その割合以上にセキュリティにかかる費用は跳ね上がっています。その理由は、世界各地でテロが頻発しているからです。
オリンピックのような大きなイベントは、テロの標的にされやすいものです。そのため、十分な警備が必要になります。
過去にあったオリンピックでの警備事情と、東京オリンピックに向けた対策についてみていきましょう。
圧倒的な動員力で成功させた北京オリンピック
2008年に開催された北京オリンピックでは、警察・軍隊合わせて10万人が警備に就きました。さらに民間のボランティアも140万人が動員され、合計150万人という、圧倒的な警備体制が築かれました。
警戒のかいあって、北京オリンピックはつづがなく終了しました。しかしこれは、採算を度外視してメンツを追い求める、中国の特殊事情があってのものだと言えます。
じっさいに北京オリンピックの警備費は、4000億円を大きく上回る莫大なものとなっています。また、警備に動員された人員も軍人がメインですので、東京オリンピックとは条件が異なります。
警備員確保に失敗したロンドンオリンピック
2012年のロンドンオリンピックでは、「G4S」が会場警備を任されました。G4Sとは世界最大の警備会社で、その年間売上高は1兆円を越えています。
しかしそんなG4Sでも、警備員の確保に失敗しました。G4Sは10000人の警備員を派遣する契約を結んでいましたが、オリンピック開催直前に用意できたのはわずか4000人に過ぎませんでした。
G4Sが失敗したのには、大きく分けて2つの理由があります。
1つは最初の予定よりも必要とされる警備員の数が増えていってしまったこと。当初2000人の予定だった警備員の配備計画が、最終的に10000人にまで増えてしまいました。
これはオリンピックの開催が決定してからテロが相次いだため、オリンピックのセキュリティレベルを上げざるを得なかったためです。
また、G4Sのやり方にも問題がありました。G4Sは余裕を持って警備員の訓練を進めようとせずに、オリンピック直前になって一気に隊員募集をしました。
たしかにお金の問題だけを考えれば、イベント直前に人員を増やすのは、非常に効率的です。しかし結果的には、必要なだけの警備員をうまく確保できず、惨憺たる失敗で終わりました。
警備員がやるはずだった業務は、退職した警察官などが招集されて穴埋めされましたが、警備員の信頼は大きく下落してしまいました。
ロンドン同様警備員確保に失敗したリオデジャネイロオリンピック
2016年のリオデジャネイロオリンピックでも、同じ失敗が繰り返されました。危険物の持ち込み検査を担当する警備員を3400人配備するはずでしたが、担当警備会社は、500人しか警備員を集めることができませんでした。
リオデジャネイロが失敗した原因も、ロンドンの時と同様です。オリンピック開催の数ヶ月前に、世界各地でテロが起こったため、急に警備員の増員が決定されました。それもオリンピック開催の前月に決定されるという慌ただしさです。
また、警備会社も事前の準備を怠り、開催日が近くなってから人を集め始めるというロンドンオリンピックと同じ失敗を繰り返していました。
警備員の担当業務は、軍隊が動員されて事なきを得ましたが、警備員の信頼性はまたしても下落してしまいました。
海外大会の失敗を踏まえた東京オリンピックへの準備
ロンドンオリンピックやリオデジャネイロオリンピックの失敗を踏まえて、日本は対応を進めています。
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会によれば、民間の警備会社から14000人の警備員が東京オリンピックで働くことが予定されています。
この14000人という数字は、ロンドンオリンピックなどの最初の予定と比べれば、大きく余裕を見たものだと言えます。そこには、人員を少なく見積もって過去の失敗を繰り返さないという、確固たる意思が感じられます。
他に警察が21000人、消防・救急が6000人、ボランティアが9000人の合計50000人での警備計画が建てられています。
北京オリンピックと比べれば少ない人数ですが、これは日本での警備計画としては過去最大級のものです。
また、セキュリティ関連で使われる予算も、1600億円という莫大な金額が計上されています。
また予定だけでなく、じっさいの行動もおこなわれています。現在、警視庁が中心となって、警備員の編成が着々と進められているのです。
東京オリンピックを受け持つ警備会社
東京オリンピックの警備に関しては、すでにSECOMとALSOKの2社がオフィシャルパートナー契約を交わしています。
通常は、1つの業種につき1つの会社としかオフィシャルパートナー契約は結ばれません。例外的に警備会社が2社共存となったのは、それだけセキュリティに対する強い思いがうかがわれます。
SECOMとALSOKと言えば警備業界の最大手で、両社合わせて9割という圧倒的なシェアを占めています。
しかしオリンピックの規模から考えると、2社だけですべての警備をまかなうのは困難です。東京近郊にある一定規模以上の警備会社なら、声がかかる可能性が極めて高いでしょう。
東京オリンピックの警備員確保は困難
現時点での予定では、オリンピックに派遣される警備員は14000人です。しかし世界各地でテロが起こっている現状から考えると、さらに増員される可能性は十分にあります。
そうなった場合、十分な人員を確保するのはかなり難しい問題となります。なにしろオリンピックの警備は、前述の通りテロとの戦いも視野に入れた業務となるからです。
そのため、どんな人間でも数さえいれば良いというものではありません。身元調査は欠かせませんし、十分な訓練を受けている必要があるでしょう。そういった事情のため、人員確保に不安が残るわけです。
東京オリンピックに向けた警備会社の取り組み
不安視されている人員確保のために、すでにSECOMやALSOKは動き出しています。しかしそれだけではなく、少ない警備員でも効率的に警備がおこなえるようなシステム構築も進められています。
たとえばSECOMでは、防犯用の飛行船が導入されています。飛行船には多数の高性能カメラが搭載されており、空から地上を監視することが可能です。
他に小回りがきくドローンによる監視網も検討されていますし、警備員にウェアラブルカメラを装着させてのリアルタイム情報送信システムも試されています。
ALSOKでは、不審者を検知する「感情可視化システム」が研究されています。これは顔や体の細かい振動などを調べることにより、対象の緊張状態や興奮状態を見破るという機械です。これにより、犯罪を企んでいる人間が感知できると考えられています。
また、スマートフォンを利用したシステムも研究が進められています。スマートフォンに専用のアプリを入れることにより、カメラやGPSの情報を瞬時に警備本部と共有できるようになります。
このシステムは、一般のボランティアスタッフともスムーズな連携が可能になるという点で大きなメリットがあります。
このような新しい技術を導入し、警備費用を抑えながら質の高い警備がおこなえるよう、各社が努力を続けています。
東京オリンピックと警備員の展望
警備員は、オリンピックを成功させるために無くてはならない存在です。警備員が警察と協力して安全確保をしなければ、選手も観客も安心してオリンピックを楽しむことができないでしょう。
しかし警備業界のほうも、東京オリンピックでの業務で大きな利益を得られる可能性があります。
東京オリンピックで警備員の待遇が向上する?
1964年の東京オリンピックで活躍したことにより、SECOMは大きな会社に成長していきました。そして現在では、警備業界で6割を超えるシェアを誇っています。また、警備業界自体もオリンピック後から急速に成長していきました。
2020年の東京オリンピックでは、1964年のものとは比べものにならないほど警備員の活動が重要になってきます。
なにしろ1964年当時は、動員された警備員はわずか100名ほどでした。それに比べれば、計画段階で14000人を見込む2020年のオリンピックは、警備員の重要性が大きく増していると言えます。
オリンピックにセキュリティ部門で参加する警備会社には、多額の報酬が支払われます。その予算規模を考えれば、1964年のオリンピックと同じように、2020年のオリンピックも警備業界の活性化のきっかけとなりうるでしょう。
警備業界が成長すれば、警備会社で働く警備員も、臨時ボーナスや昇給など、待遇向上が期待できます。
東京オリンピックで警備員のイメージが変わる?
東京オリンピックは、金銭的な面だけではなく警備員という職業に対するイメージに変化を及ぼす可能性もあります。
1964年のオリンピック警備にSECOMが抜擢され、業務をこなしたと書きました。実はその後、オリンピックでの警備員を元にしたテレビドラマが放映されるという出来事がありました。
テレビの力もあり、それまで知られていなかった警備員という仕事が世間に広まっていったわけです。
現在、警備員という仕事を知らない人はほとんどいませんが、ドラマ放映当時と違い、警備員のイメージは良くありません。
警備員のイメージが悪くなったことにはさまざま要因がありますが、次のオリンピックは悪いイメージを変えるきっかけとなりうるものです。
会場を訪れる観客は必ず警備員と接触することになりますし、採用が予定されている警備ボランティア9000人と警備員ではさらに深い交流がなされるでしょう。
オリンピックに参加する警備員が、プロフェッショナルとしてテキパキと仕事をこなせたなら、警備員が再評価され、そのパブリックイメージが向上することも期待できるでしょう。
もちろん、ロンドンやリオデジャネイロの時のように、警備会社が自社の利益を優先した場合は逆の結果になります。オリンピック直前に、素人同然の警備員が送り込まれるとしたら、警備員のイメージは今より悪いものとなってしまうでしょう。
東京オリンピック開催中に警備員のやるべき仕事
オリンピック開催期間中、警備員は競技会場や交通機関で観客を誘導する作業をおこないます。
オリンピックには多数の人が訪れるため、スムーズな観客誘導ができなければ大きな混乱が巻き起こってしまうでしょう。警備員の業務は、円滑にイベントを進めるために大切なものです。
また通常の雑踏警備のように、会場や道路などを警備する業務もおこないます。他に選手村の見回りも、警備員の受け持つ業務となります。
オリンピック警備では、不審者や爆発物などテロへの対策も必須ですが、そちらは主に警察の仕事で、警備員はそれをサポートする立場になります。
ただし会場に入る観客のスクリーニング業務などでは、最新機器を使った警備員が活躍することになるでしょう。
東京オリンピックの準備期間にも警備員の仕事がある
開催中だけではなく、オリンピックの準備期間中にも警備員の仕事はあります。
オリンピックともなれば、仮設・恒久を問わず多くの施設が建てられます。オリンピックでは、恒久施設・仮設施設・インフラ整備をあわせて6800億円もの予算が計上されています。大規模な工事を行うなら、当然警備員の出番となります。
施設を警備する警備員の仕事は膨大なものとなります。これから先、オリンピックが近づくにつれ、どんどん警備の仕事が増えていくでしょう。
警備員の仕事内容は、警備員の仕事内容は業務種別や働く場所で大きく変わるの記事に詳細を書いています。
東京オリンピックで警備員をやりたいならどうする?
華やかな東京オリンピックの舞台を、影で支える仕事をしたいと考える人は少なくないはずです。そうした人には警備員がうってつけの仕事だと言えるでしょう。
オリンピックで警備員をやりたいなら、東京近郊の警備会社に入社するのが近道です。ある程度の警備会社なら、必ずイベントに参加することになるはずです。
その場合、オリンピック直前に警備員になるよりは、早めに入社しておく方が良いでしょう。テロの問題もありますし、直前参加では思うように働けないケースも考えられるからです。
事前に雑踏警備などの業務をこなして熟練しておけば、オリンピック警備で活躍することができるでしょう。
未経験から警備員になるために知って欲しいことは、【未経験者歓迎】警備員は経験や専門知識がなくてもなれる職業の記事で紹介しているので読んでみてください。
東京オリンピックで輝く警備員
オリンピックと警備員とは密接な関わりがあります。オリンピックがきっかけで、警備業界は発展してきました。
2020年の東京オリンピックでは、1964年よりはるかに警備員の重要性が増しています。予算も人員も大幅に増え、警備員無しではオリンピックの成功はありえないと言っても差し支えないでしょう。
もし仕事を探しているなら、警備員となって東京オリンピックを成功させるというのは立派な目標となるのではないでしょうか。
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